【高配当株|1Q決算シーズンに増配・増収】4206 アイカ工業|営業利益は44.9%増、最終利益は5.7%増にとどまる

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2026年7月から8月に増配または上方修正を発表した高配当株146社を17項目で採点したシリーズの、個別銘柄編9社目です。今回は総合9位だった4206 アイカ工業を、決算短信と適時開示の数字で掘り下げます。

結論

  • 8月4日に出たのは年間配当を140円から144円へ、4円引き上げる増配と、通期業績予想の上方修正の2本です。2026年9月2日終値4,170円に対する予想利回りは3.45%になります。
  • この会社の増配には特別な事情がありません。会社自身が決算説明会資料で「17期連続増配、28期連続減配なし」と書いており、144円が実現すれば18期連続です。本シリーズ9社のなかで、増配のニュース性がいちばん薄い回です。
  • そのかわり、期初に出した配当予想を下回って着地したことが12期連続でありません。上回ったのが7回、そのままが5回。8月の上積みはこの会社の平常運転に近い動きです。
  • 業績はきわめて強い内容でした。第1四半期は売上高71,379百万円(前年同期比+19.4%)、営業利益9,160百万円(+44.9%)。売上高・営業利益・経常利益・四半期純利益のいずれも第1四半期として過去最高です。
  • ところが最終利益だけは4,727百万円で、伸びはわずか+5.7%にとどまります。営業利益の+44.9%が最終利益の+5.7%になるまでに、4段の目減りが挟まっています。この記事の中心はここです。
  • 4段の内訳は、営業外収支-337百万円・段階取得に係る差損-906百万円・法人税等-864百万円・非支配株主持分-473百万円。うち一過性と言えるのは段階取得に係る差損だけで、残りは来期以降も残ります。
  • 原因は今年6月にインドのメラミン化粧板メーカースタイラム・インダストリー社を連結子会社にしたことです。売上と営業利益は増えますが、100%子会社ではないので利益の一部は他の株主のものになります。
  • 買収の影響は財務にも出ています。のれんが1,658百万円から20,175百万円へ12倍、自己資本比率は58.4%から56.2%へ低下、借入金残高は1年で110.8億円から385.9億円へ3.5倍になりました。
  • 2026年3月期はフリーキャッシュフローが記録の取れる9期で初めて赤字(△18,698百万円)になっています。買収の一時金169.5億円が入っているためで実力の低下ではありませんが、それを戻してもなお赤字です。
  • 中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」は、経常利益300億円を1年前倒しで達成した一方、売上高3,000億円は最終年度の上方修正後予想2,900億円でも届きません
  • 採点では加点17点・減点0点。2008年から2026年までの19年で、減点項目に一度も引っかからなかった5社のうちの1社です。

前の8社との違い

増配の原資は、回ごとにこれだけ違う
増配の原資は、回ごとにこれだけ違う

このシリーズで先に取り上げた8社と並べると、同じ「増配」でも原資がまったく違うことが分かります。

銘柄 増配の原資 来期以降も残るか
6200 インソース 上場10周年の記念配当 5.5円 残らない(一時的)
4746 東計電算 保有株の売却益 43億円(特別利益) 売却を続けなければ残らない
3771 システムリサーチ 配当方針の変更(累進配当の導入) 方針が続くかぎり残る
1381 アクシーズ 鶏肉相場の上昇と飼料コストの下落 相場が反転すれば残らない
3964 オークネット M&A投資枠70億円の振り替え 原資が尽きれば残らない
7931 未来工業 業績予想の再開でDOEから配当性向50%へ 利益が減れば配当も減る
1414 ショーボンドHD 配当性向を60%へ引き上げ+自己株買い 方針が続けば残る。ただし利益次第
7296 エフ・シー・シー 上方修正で1株利益が上がったぶんの50% 1株利益が下がれば配当も下がる
4206 アイカ工業 17期続けてきた累進配当の平常運転 方針が続くかぎり残る

8社めまでは、増配のきっかけが記念配当・売却益・方針変更・相場・上方修正と、その期に何かが起きた結果だった。9社めのアイカ工業だけは、何も起きていない。17期連続増配・28期連続減配なしの累進配当を、今年も続けただけ。増配のニュース性がいちばん薄く、そのぶん再現性がいちばん高い回。

前回の7296 エフ・シー・シーは、配当性向50%という計算式に1株利益をそのまま通していた。だから利益が落ちる今期は配当も落ちる。今回のアイカ工業は計算式を置いていない。「減配をしない」という約束のほうを先に置いて、そこに利益を合わせにいく形になっている。利益に配当を従わせるか、配当に利益を合わせにいくか。方向が逆。

そのかわり、上振れの取り分は小さい。エフ・シー・シーは1株利益が上がったぶん配当も同率で上がったが、アイカ工業の今回の上積みは期初予想140円に対して4円、2.9%。同じ日に営業利益を12.3%上方修正しているのに、配当の上積みはその4分の1。

どんな会社か

接着剤や樹脂などの「化成品」と、メラミン化粧板を中心とした「建装建材」の2本柱を持つ化学メーカー。メラミン化粧板は国内シェア1位です。愛知県名古屋市中村区名駅一丁目1番1号 JPタワー名古屋26階に本社があり、東証プライム・名証プレミアに上場、決算期は3月末。2027年3月期は2026年4月〜2027年3月です。従業員は連結5,314人(2026年3月末)、資本金98.9億円。連結会社は12の国と地域に49社あります。

1936年10月20日、愛知時計電機の化学部門が分離独立して「愛知化学工業株式会社」として設立。1966年に「アイカ工業株式会社」へ社名変更。90年の歴史のなかで、接着剤から化粧板へ、国内から東南アジア・インドへと事業を広げてきました。

できごと
1936年 愛知時計電機の化学部門が分離独立し、愛知化学工業株式会社として設立
1939年 我が国初のユリア樹脂接着剤「愛知無敵糊」を発売
1949年 名古屋証券取引所に株式を上場
1960年 メラミン化粧板「アイカデコライト」を発売(同年4月「アイカ」に改称)
1962年 東京証券取引所市場第二部に株式を上場
1966年 アイカ工業株式会社に社名変更
1968年 マレーシアアイカ社を設立。海外初の生産拠点
1975年 壁面仕上げ用塗材「ジョリパット」を発売
1986年 東京証券取引所および名古屋証券取引所市場第一部に上場
2022年 東証の市場再編に伴いプライム市場へ移行
2026年 インドのメラミン化粧板メーカー Stylam Industries を連結子会社化

事業は2つに分かれます。化成品は接着剤・建設樹脂(塗り床材「ジョリエース」、塗り壁材「ジョリパット」)・機能材料。建装建材はメラミン化粧板・不燃化粧板「セラール」・住器建材などです。メラミン化粧板の国内シェアは1位、日本で初めてユリア樹脂接着剤を作ったのもこの会社です。

株主構成には特徴があります。

大株主(2026年3月末) 持株数 比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10,351千株 15.31%
日本カストディ銀行(信託口) 5,721千株 8.46%
自社(自己株口) 4,269千株 6.32%
自社取引先持株会 2,519千株 3.73%
自社株株式保有会 1,650千株 2.44%

上位は信託銀行の名義が並び、事業会社の親会社にあたる株主はいない。3位が自己株口6.32%、4位が取引先持株会3.73%。特定の1社に売上も資本も握られていない構造で、その意味では独立性の高い会社になる。

株価は2026年9月2日終値で4,170円、今期予想EPS 308.17円なのでPERは13.5倍、1株純資産3,060円(2026年6月末の自己資本を自己株控除後の株数で割ったもの)に対してPBRは1.36倍です。時価総額は約2,819億円になります。

本題:営業利益は44.9%増、最終利益は5.7%増

営業利益の+44.9%が最終利益の+5.7%になるまで
営業利益の+44.9%が最終利益の+5.7%になるまで

まず第1四半期の損益計算書を上から下まで並べます。

項目 2026年3月期1Q 2027年3月期1Q 前年同期比
売上高 59,765百万円 71,379百万円 +19.4%
営業利益 6,324百万円 9,160百万円 +44.9%
経常利益 7,175百万円 9,674百万円 +34.8%
税金等調整前四半期純利益 7,175百万円 8,768百万円 +22.2%
四半期純利益 4,867百万円 5,597百万円 +15.0%
非支配株主に帰属する四半期純利益 396百万円 869百万円 +119.4%
親会社株主に帰属する四半期純利益 4,471百万円 4,727百万円 +5.7%
営業利益率 10.6% 12.8%

一段ずつ下りるたびに伸び率が落ちていきます。+44.9% → +34.8% → +22.2% → +15.0% → +5.7%。この目減りを金額で書くと次のようになります。前年同期の最終利益4,471百万円から、今期の4,727百万円まで、増えたのは256百万円だけです。

金額
営業利益の増加 +2,836百万円
営業外収支 -337百万円
段階取得に係る差損 -906百万円
法人税等の増加 -864百万円
非支配株主持分の増加 -473百万円
差し引き=最終利益の増加 +256百万円

営業利益は2,836百万円ふえている。そこから営業外収支の悪化337百万円、スタイラム社を子会社にしたときの段階取得に係る差損906百万円、法人税等の増加864百万円、非支配株主に配分される利益の増加473百万円が引かれて、残った増加が256百万円。営業利益の+44.9%が最終利益の+5.7%になるまでの道筋がこの4段で全部説明できる。

ここで大事なのは、4つの目減りのうち一過性なのは1つだけという点です。

4つのうち、段階取得に係る差損906百万円は今期かぎりの費用。株式を買い増して支配を得たときに、それまで持っていたぶんを時価で評価し直して出た損で、来期には出てこない。

残りの3つは性格が違う。非支配株主持分の増加は、スタイラム社を100%ではなく過半だけ持つ形で連結したことの裏返しで、来期以降も続く。税率も32.2%から36.2%へ上がっており、インドの税率が効いている可能性が高い。「一過性だから気にしなくていい」で片づけられるのは4つのうち1つだけ。

原因はインドの買収にある

4段のうち3段までがひとつの出来事に由来します。2026年6月18日に完了した、インドのスタイラム・インダストリー社の連結子会社化です。

項目 内容
社名 Stylam Industries Limited
所在地 インド・チャンディーガル
設立・従業員 1991年設立、従業員1,820名
上場 BSEおよびNSEに上場
事業 メラミン化粧板を主力とする建材の製造販売
2026年3月期の売上高 194.3億円(1ルピー=1.71円で換算)
税引前利益 34.8億円(利益率18.0%)
ROE 20.5%
取得比率 40.0%〜53.12%

インドのメラミン化粧板メーカー。2026年3月期の売上高は円換算で194億円、税引前利益率18.0%・ROE20.5%と、アイカ本体より収益性が高い。売上の7割はインド国外で、欧州・アジア・中東・米国に出ている。

取得は2025年12月の契約締結から段階的に進み、創業家から約27%、TOBで約3%、さらに創業家から約10%を追加取得して合計40%を取得。2026年6月18日に連結子会社化が完了した。

この買収が今期の決算に3つの形で出ている。ひとつは連結による増収増益。ふたつめは段階取得に係る差損906百万円。みっつめは非支配株主持分で、1Qだけで869百万円が親会社の取り分から外れている。

効果は建装建材セグメントにはっきり出ています。メラミン化粧板の1Q売上は82.8億円から142.5億円へ72.1%増、建装建材の海外売上高は41.9億円から102.5億円へ2.4倍になりました。連結全体の海外売上高比率も46.4%から49.8%へ上がっています。

いっぽうで貸借対照表の姿は変わりました。

項目 2026年3月末 2026年6月末
総資産 326,435百万円 344,379百万円
のれん 1,658百万円 20,175百万円
純資産 207,298百万円 221,263百万円
うち自己資本 190,480百万円 193,616百万円
自己資本比率 58.4% 56.2%
短期借入金 35,181百万円 33,016百万円

のれんは1,658百万円から20,175百万円へ、18,517百万円ふえた。総資産344,379百万円の5.9%にあたる。インド事業がつまずけば減損の対象になる金額で、いまの自己資本193,616百万円に対しては10.4%。

自己資本比率は1Qで58.4%から56.2%へ2.2ポイント下がった。スタイラム社の連結で総資産が179億円ふえ、非支配株主持分が108億円ふえたぶん、自己資本の比率が薄まっている。

借入金残高は2025年3月期110.8億円から2026年3月期385.9億円へ、1年で3.5倍にふえた。スタイラム社の取得資金を短期借入で手当てしたもので、2026年3月期の財務キャッシュフローには短期借入金の純増28,731百万円が立っている。

通期予想も同じ形をしている

2027年3月期 会社予想の前期比
2027年3月期 会社予想の前期比

1Qで見えた段差は、通期の会社予想にもそのまま出ています。

項目 2026年3月期 実績 2027年3月期 会社予想 前期比
売上高 251,764百万円 290,000百万円 +15.2%
営業利益 29,143百万円 34,800百万円 +19.4%
経常利益 30,136百万円 35,300百万円 +17.1%
最終利益 18,533百万円 19,500百万円 +5.2%
1株利益 296.48円 308.17円 +3.9%
1株配当 138円 144円 +4.3%

売上高+15.2%、営業利益+19.4%、経常利益+17.1%に対して、最終利益は+5.2%、1株利益は+3.9%。上に行くほど伸び、下に行くほど伸びが細る形になっている。

経常利益から最終利益までに抜ける割合
経常利益から最終利益までに抜ける割合

経常利益から最終利益までにどれだけ抜けているかを5期並べると、今期だけ逆行することが分かります。

決算期 経常利益 最終利益 抜けた割合
2023年3月期 22,088百万円 10,059百万円 54.5%
2024年3月期 26,135百万円 15,135百万円 42.1%
2025年3月期 28,668百万円 16,896百万円 41.1%
2026年3月期 30,136百万円 18,533百万円 38.5%
2027年3月期会社予想 35,300百万円 19,500百万円 44.8%

経常利益から最終利益(親会社株主に帰属する当期純利益)までに抜ける割合。法人税と非支配株主のぶんが入る。2024年3月期から3期かけて42.1%→41.1%→38.5%と改善してきたが、今期予想は44.8%へ戻る。6.3ポイントの逆行で、経常利益が17.1%伸びても最終利益が5.2%しか伸びない理由はここにある。

2023年3月期の54.5%は、この5期でいちばん重い。経常利益220億円に対して最終利益は100億円しか残っていない。同じ期にROEも6.9%まで落ちており、直近では最も苦しかった期にあたる。

8月4日の上方修正の中身
8月4日の上方修正の中身

8月4日の上方修正そのものも同じ形でした。

項目 前回予想(5月1日) 今回予想(8月4日) 増減率
売上高 280,000百万円 290,000百万円 +3.6%
営業利益 31,000百万円 34,800百万円 +12.3%
経常利益 32,000百万円 35,300百万円 +10.3%
最終利益 18,600百万円 19,500百万円 +4.8%

営業利益は12.3%の上積みなのに、最終利益の上積みは4.8%にとどまる。この差が今期のいちばんの見どころになる。理由として会社が挙げているのは、収益性の改善と成長事業の拡大に取り組んだこと、高付加価値商品の販売や海外事業の成長施策を進めたこと、第1四半期から連結に組み入れたスタイラム・インダストリー社が寄与したことの3つです。

1Qの進捗率
1Qの進捗率

1Qの進捗率も同じことを示しています。

項目 1Q実績 通期会社予想 進捗率
売上高 71,379百万円 290,000百万円 24.6%
営業利益 9,160百万円 34,800百万円 26.3%
経常利益 9,674百万円 35,300百万円 27.4%
最終利益 4,727百万円 19,500百万円 24.2%

1年を4等分すれば25%。営業利益26.3%・経常利益27.4%はならした水準をやや上回るが、最終利益は24.2%で25%に届かない。しかもこれは8月4日に上方修正したあとの予想に対する進捗率。

中間期予想に対する進捗率は会社自身が出しており、経常利益54.7%に対して最終利益48.7%。ここでも同じ差が出ている。

それでも配当は17期続けて増えている

17期連続増配・28期連続減配なし 配当は18年で5.1倍
17期連続増配・28期連続減配なし 配当は18年で5.1倍

ここまで最終利益の話ばかりしてきましたが、この会社を高配当株として見るときの本当の芯は別のところにあります。配当が17期続けて増えているという一点です。

決算期 1株あたり年間配当 内訳 1株利益 配当性向
2024年3月期 112円 中間52円+期末60円 236.60円 47.3%
2025年3月期 126円 中間56円+期末70円 266.36円 47.3%
2026年3月期 138円 中間66円+期末72円 296.48円 46.5%
2027年3月期 会社予想 144円 中間72円+期末72円 308.17円 46.7%

2009年3月期の28円から2027年3月期予想の144円まで、18年で5.1倍。会社は決算説明会資料で「17期連続増配、28期連続減配なし(26/3期まで)」と書いている。今期の144円が実現すれば18期連続になる。

一本調子に見えるが、2017年3月期に46円から85円へ一段跳ねている。配当性向が30.1%から50.2%へ上がった期で、業績がその年に倍になったわけではない。配る比率を上げた結果の増配だった。

方針は中期経営計画に書かれています。「減配をしない累進配当の継続」。配当性向50%やDOEといった計算式は置いていません。

配当の決め方は「減配をしない累進配当」で、計算式ではない。配当性向50%のような機械的なルールを置いていないので、利益が落ちた期でも配当は据え置きか増配になる。2023年3月期に最終利益が23.3%減った期でも、配当は108円から109円へ増えている。

裏返すと、利益が伸びても配当が同じだけ伸びるとは限らない。今期の144円は1株利益308.17円の46.7%で、前期の46.5%とほとんど変わらない。配当は利益の伸びをそのまま映すのではなく、少し遅れてついてくる。

8月4日の配当修正には、ひとつ細かい注意点があります。動いたのは中間配当だけで、期末配当72円は前回予想のまま据え置かれている。年間144円という数字は、期末をこのまま72円で出すことが前提になっている。前期実績との比較では中間が66円→72円で6円増、期末は72円のまま。年間では138円→144円の6円増になります。

期初予想を下回ったことが12期ない

期初の配当予想と実際の着地
期初の配当予想と実際の着地

この会社の配当をもうひとつの角度から見ます。期初に出した予想と、実際の着地の比較です。

決算期 期初の配当予想 着地(実績)
2015年3月期 40円 43円 +3円
2016年3月期 44円 46円 +2円
2017年3月期 80円 85円 +5円
2018年3月期 88円 92円 +4円
2019年3月期 103円 103円 ±0円
2020年3月期 106円 106円 ±0円
2021年3月期 106円 107円 +1円
2022年3月期 108円 108円 ±0円
2023年3月期 109円 109円 ±0円
2024年3月期 110円 112円 +2円
2025年3月期 113円 126円 +13円
2026年3月期 136円 138円 +2円
2027年3月期 140円 144円(8月4日の修正後・進行中) +4円

この12期で、期初に出した配当予想を下回って着地したことが一度もない。上回ったのが7回、そのままが5回。とくに2025年3月期は期初113円に対して着地126円で、13円の上積みがあった。今期も8月4日の時点で期初140円が144円へ動いている。

この会社の期初予想は、守れる水準を置いてから期中に積み増す作りになっている。8月の「増配」は特別なイベントではなく、この会社の平常運転に近い。

ただし上積みの幅は年によってまるで違う。13円の年もあれば0円の年もある。「毎年必ず上積みされる」と読むのは行きすぎで、言えるのは「下振れした前例がない」ところまで。

セグメント:利益の3分の2は建装建材

2027年3月期1Q セグメント別の売上高とセグメント利益
2027年3月期1Q セグメント別の売上高とセグメント利益
セグメント 前年同期 売上 今1Q 売上 前年同期比 前年同期 利益 今1Q 利益 前年同期比 利益率
化成品 33,036百万円 37,254百万円 +12.8% 2,100百万円 3,503百万円 +66.8% 6.4% → 9.4%
建装建材 26,728百万円 34,124百万円 +27.7% 5,347百万円 6,952百万円 +30.0% 20.0% → 20.4%

売上はほぼ半々だが、利益率がまるで違う。建装建材は20.4%、化成品は9.4%。1Qの営業利益10,456百万円のうち6,952百万円、66.5%を建装建材が稼いでいる。

建装建材の27.7%増収は、大半がスタイラム社の連結によるもの。メラミン化粧板の1Q売上は82.8億円から142.5億円へ72.1%ふえた。国内の主力用途は前期の価格改定に伴う駆け込み需要の反動でわずかに前年割れしており、伸びたのは海外のほう。

化成品の利益率6.4%→9.4%という改善が今期のもうひとつの見どころ。接着剤は国内の木工・家具用と施工用が好調で、海外では前期に稼働を始めた中国・福建工場の操業が本格化した。塗り床材「ジョリエース」は半導体工場やデータセンター向けで採用が広がっている。

ただし化成品には長い足踏みがありました。

化成品セグメント 2023/3期 2024/3期 2025/3期 2026/3期 2027/3期計画
売上高 141,312百万円 130,300百万円 138,587百万円 136,262百万円 141,500百万円
営業利益 7,494百万円 9,280百万円 9,331百万円 9,330百万円 9,700百万円
営業利益率 5.3% 7.1% 6.7% 6.8% 6.9%

化成品は3期にわたって足踏みしている。売上は2023年3月期の1,413億円から2026年3月期1,363億円へ減り、営業利益も9,280→9,331→9,330百万円とほぼ横ばい。会社自身が決算説明会資料で「化成品海外はさらなる収益性改善が必要」と書いている。今期の1Qで66.8%増益になったのは、この足踏みからの反転という位置づけになる。

中期経営計画は片方だけ達成する

中計「Value Creation 3000 & 300」の進捗
中計「Value Creation 3000 & 300」の進捗

中期経営計画の名前は「Value Creation 3000 & 300」。売上高3,000億円・経常利益300億円という2つの数字がそのまま計画名になっている。経常利益300億円のほうは2026年3月期に301億円で、1年前倒しで達成した。

項目 2023/3期 2024/3期 2025/3期 2026/3期 2027/3期 目標
売上高 2,420億円 2,366億円 2,486億円 2,517億円 2,900億円 3,000億円
経常利益 220億円 261億円 286億円 301億円 353億円 300億円
海外売上高比率 51.2% 47.8% 48.0% 45.8% 50%以上
ROE 6.9% 9.9% 10.1% 10.2% 10%以上
ROIC 8.1% 8.9% 9.6% 8.8% 9%以上

2027年3月期の売上高・経常利益は8月4日の上方修正後の数値(中計策定時の計画は売上高2,800億円・経常利益320億円)。

届いていないのは売上高のほう。2026年3月期の実績は2,517億円で、3,000億円まで483億円足りない。最終年度の計画も2,800億円で、8月4日の上方修正後の2,900億円を使っても100億円届かない。計画名に入っている2つの数字のうち、片方は前倒しで達成し、片方は未達で終わる。

海外売上高比率も「50%以上」に対して2026年3月期は45.8%。2023年3月期の51.2%から3年かけて5.4ポイント下がっている。中国の不動産市況の低迷で海外が伸びなかったぶん、国内が伸びて比率が下がった形。

ただし2027年3月期の1Qは、スタイラム社の連結で海外売上高比率が49.8%まで戻っている。建装建材の海外売上は41.9億円から102.5億円へ2.4倍になった。50%の目標には、最終年度で手が届くところまで来た。

資本効率にも注意点があります。ROEは6.9%→9.9%→10.1%→10.2%と改善し、会社が置く株主資本コスト6.9%を上回りました。しかしROICは9.6%から8.8%へ下がり、中計目標の「9%以上」を割っています。総資産が3年で2,500億円から3,264億円へ増えたぶん、投下資本あたりの効率が一度落ちた形です。

キャッシュフローは初の赤字

営業キャッシュフローと投資キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー
営業キャッシュフローと投資キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー

2026年3月期の営業キャッシュフローは8,776百万円で、前期26,751百万円の3分の1に落ちた。フリーキャッシュフローは18,698百万円の赤字。記録が取れる2018年3月期以降で、フリーキャッシュフローが赤字になったのは初めて。

原因は決算短信に書いてある。「預け金の増加16,953百万円」。スタイラム社の株式取得に向けて先に預け入れた一時金で、これを戻すと営業キャッシュフローは25,729百万円になり、前期並みの水準に戻る。会社も決算説明会資料でこの調整後の数字(257.2億円)を出している。

ただし、預け金を戻してもフリーキャッシュフローは1,745百万円の赤字。投資キャッシュフローが27,474百万円と大きく、そのうち関係会社株式取得による支出が17,996百万円。同じ期に配当8,534百万円と自己株式取得6,000百万円も出しているので、還元と投資は借入で賄った期にあたる。

なお1Qの決算短信には四半期連結キャッシュ・フロー計算書が付いていない。会社は「四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成しておりません」と注記しており、1Q時点のキャッシュの動きは減価償却費の開示だけになる。

後述する採点で「⑤営業CF」が◎でも○でもなく△にとどまったのは、ここが理由です。中身は買収の一時金なので実力の低下ではありませんが、採点は数字をそのまま見ているのでここは下がります。

業績の長期推移

2002年3月期の793億円から2027年3月期予想の2,900億円まで、25年で3.7倍。途中で2回、大きく伸びている。2014年3月期の+39.2%は、2012年12月に取得したアジア太平洋の接着剤事業が通年で寄与した期。2022年3月期の+22.8%は、フェノール樹脂事業の譲受やマレーシア・台湾での買収が続いた期。今期の+15.2%はスタイラム社の連結による。

落ち込みは2009〜2010年3月期のリーマン・ショック(2期で15.5%減)と、2021年3月期の新型コロナ(8.8%減)の2回。建設と住宅に連動する事業なので、景気の波はそのまま乗ってくる。

営業利益と営業利益率の長期推移
営業利益と営業利益率の長期推移

営業利益率は2023年3月期の8.49%を底に、3期かけて11.58%まで戻し、今期予想は12.00%。19年間の記録のなかでいちばん高い水準に来ている。2023年3月期に落ちたのは原材料高を売価に転嫁しきれなかった期で、そこから価格改定と高付加価値商品の拡販で戻してきた。

四半期でならすと、この会社には季節性があります。

四半期 売上高 営業利益 営業利益率 最終利益
24年7-9月 63,298百万円 7,088百万円 11.2% 4,721百万円
24年10-12月 64,645百万円 8,052百万円 12.5% 5,483百万円
25年1-3月 63,911百万円 6,209百万円 9.7% 2,558百万円
25年4-6月 59,765百万円 6,324百万円 10.6% 4,471百万円
25年7-9月 61,586百万円 7,024百万円 11.4% 4,953百万円
25年10-12月 64,888百万円 8,731百万円 13.5% 5,967百万円
26年1-3月 65,525百万円 7,064百万円 10.8% 3,142百万円
26年4-6月 71,379百万円 9,160百万円 12.8% 4,727百万円

2026年4-6月の売上高71,379百万円は3か月ベースで過去最高。営業利益9,160百万円も、直前の四半期を上回っている。

ただし最終利益の並びを見ると、1-3月だけ極端に低い。2025年1-3月は2,558百万円、2026年1-3月は3,142百万円で、どちらも前後の四半期の半分近い水準。この会社の第4四半期は利益が落ちる季節性がある。

採点の中身

このシリーズの17項目採点で、アイカ工業は加点17点・減点0点・総合17点、146社中9位でした。

項目 評価 数値
①売上高 10年成長率5.31%/直近4年1.32%
②EPS 10年成長率6.87%/直近4年23.53%
③営業利益率 11.58%
④自己資本比率 58.4%
⑤営業CF 赤字0回/直近フリーCF赤字
⑥現金等 10年で1.58倍
⑦配当金 連続増配16年
⑧配当性向 46.55%
⑨株価の推移 5年で+6.31%/1年で+9.48%

2008年から2026年までの19年で、減点項目に一度も引っかからなかった5社のうちの1社。純利益の赤字なし、減配なし、無配なし、タコ足配当なし。満点を付けたのは配当金(連続増配16年)と配当性向(46.5%)の2項目。落としたのは売上(直近4年のCAGR1.3%)、自己資本比率(58.4%)、営業キャッシュフロー(直近のフリーCF赤字)の3項目。この採点は2026年8月21日時点のデータで付けている。

連続増配年数の16年は、IR BANKで数値が取れる2010年3月期以降で数えたもの。会社は2009年3月期を起点に「17期連続増配」と表現しています。

株価は8年前の高値をまだ抜けていない

株価の長期推移(月末終値)
株価の長期推移(月末終値)
時点 月末終値 いまとの比較
2026年8月末 4,151円
1年前(2025年8月) 3,790円 +9.5%
5年前(2021年8月) 3,690円 +12.5%
10年前(2016年8月) 2,571円 +61.5%
20年前(2006年8月) 1,578円 +163.1%
過去最高(2018年9月) 4,590円 -9.6%
5年安値(2022年5月) 2,794円 1.49倍

2026年8月末の4,151円は、この会社の株価としては高い水準にある。2022年5月の2,794円から1.49倍。ただし過去最高ではない。2018年9月の月末終値4,590円には9.6%届いていない。8年前の高値をまだ抜けていない株ということになる。

並べ方を変えると、2016年8月末が2,571円、2021年8月末が3,690円。10年で61.5%、5年で12.5%しか上がっていない。とくに直近5年は、2018年に付けた高値を挟んで長く横ばいが続いた期間にあたる。配当が2016年3月期の46円から今期予想144円へ3.1倍になった一方で、株価は同じ10年で1.6倍。伸びの差がそのまま利回りの高さになっている。

2018年9月に4,590円を付けたとき、直前に確定していた2018年3月期の配当は92円。利回りにすると2.0%だった。いま株価は4,151円と当時より低く、配当は144円。株価が戻らないあいだに配当だけが1.6倍になり、利回りが2.0%から3.45%まで上がった、という構図になっている。

この構図は、採点で「⑨株価の推移」が◎ではなく○にとどまった理由でもあります。5年騰落率6.31%は、このランキングの上位10社のなかでは低いほうです。

確認しておきたいこと

  1. 非支配株主のぶんは戻らない。 スタイラム社は100%子会社ではありません。1Qだけで869百万円が最終利益の手前で抜けており、前年同期の396百万円から2.2倍になりました。これは来期以降も続きます。
  2. 税率の水準。 1Qの税負担率は36.2%で、前年同期の32.2%から4.0ポイント上がりました。インド子会社が入ったぶんが効いている可能性が高いものの、四半期の税率は振れるので、2Q・3Qで水準が定まるのを見る必要があります。
  3. のれんの20,175百万円。 総資産の5.9%、自己資本の10.4%です。インド事業が計画を下回れば減損の対象になります。
  4. 期末配当は据え置きのまま。 8月4日に増えたのは中間配当だけです。年間144円は期末が72円で出ることを前提にしています。11月の中間決算で期末配当も動くかどうかが次の節目です。
  5. 化成品が反転を続けるか。 1Qは66.8%増益でしたが、直前の3期は営業利益がほぼ横ばいでした。会社自身が「化成品海外はさらなる収益性改善が必要」と書いています。
  6. 第4四半期の弱さ。 2025年1-3月の最終利益2,558百万円、2026年1-3月3,142百万円。いずれも前後の四半期の半分近い水準です。1Qの好調をそのまま4倍して考えると外します。
  7. 中東情勢と原材料。 会社は1Qの原材料影響を約15億円と見込み、6月からメラミン・化粧ボードで10〜30%、フィルム・セラールなどで8〜30%の価格改定を実施しています。原材料が上がるたびに価格改定で追いかける構造です。
  8. 転換社債の希薄化。 転換社債型新株予約権付社債が110億9,300万円残っている。2027年満期のユーロ円建で、1Qの1株利益は74.71円だが、潜在株式で調整すると70.99円まで下がる。5.0%ぶんの希薄化がすでに見えている。2026年3月期にも69億3,800万円ぶんが転換で減っており、株数がじわじわふえる要因になっている。

まとめ

アイカ工業は、17期連続増配・28期連続減配なしという、このシリーズで扱った9社のなかで最も安定した配当の歴史を持つ会社です。方針は「減配をしない累進配当の継続」で、計算式ではありません。2008年から2026年までの19年で減点項目に一度も引っかからなかった5社のうちの1社でもあります。

8月4日の増配も、期初予想140円を144円へ4円上積みしただけの、この会社にとっては平常運転に近い動きでした。過去12期にわたって期初予想を下回った着地がないので、8月の上積み自体は毎年のように起きています。ニュース性がいちばん薄く、そのぶん再現性がいちばん高い増配だと言えます。

一方で、今期の数字には見落としやすい段差があります。1Qの営業利益は+44.9%なのに、最終利益は+5.7%しか伸びていません。通期予想も営業利益+19.4%に対して最終利益+5.2%です。原因はインドのスタイラム社を連結子会社にしたことで、段階取得に係る差損906百万円は今期かぎりですが、非支配株主持分と税率の上昇は来期以降も残ります

財務にも変化が起きました。のれんが12倍、借入金が3.5倍、自己資本比率は56.2%へ低下。2026年3月期のフリーキャッシュフローは記録の取れる9期で初めて赤字になりました。中身は買収の一時金なので実力の低下ではありませんが、この会社は「安定した高配当株」から「インドに賭けた成長株」へ、少しずつ性格を変えつつあるように見えます。

中期経営計画「Value Creation 3000 & 300」も、経常利益300億円は1年前倒しで達成したのに対し、売上高3,000億円は上方修正後の予想2,900億円でも届きません。株価は2018年9月の4,590円をまだ9.6%下回ったままです。

予想利回り3.45%は、この10社のなかでは中位です。ただしその中身は、株価が8年戻らないあいだに配当だけが増え続けた結果としての利回りでした。累進配当の方針が続くかぎり配当は減らない設計になっている一方、増える幅は利益の伸びよりずっと小さい。この非対称をどう見るかが、この銘柄の評価を分けるところだと思います。

動画版

この記事の内容を、グラフ13枚と音声で20分にまとめた動画版です。

データ出所

  • 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-08-04/TDnet)
  • 2027年3月期 第1四半期決算短信補足資料(2026-08-04/TDnet)
  • 配当予想の修正(増配)に関するお知らせ(2026-08-04/TDnet)
  • 2027年3月期第2四半期(累計)業績予想の公表及び通期業績予想の修正に関するお知らせ(2026-08-04/TDnet)
  • 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-05-01/会社IRサイト)
  • 2026年3月期決算説明会資料・質疑応答(2026-05-25/会社IRサイト)
  • 業績・配当・財務・キャッシュフローの長期推移(2008〜2026年3月期/IR BANK)
  • 株価・PER・PBR・時価総額・四半期業績・大株主(2026-09-02終値/株探)
  • 会社概要・沿革・株式情報(2026-09-03閲覧/会社IRサイト)
  • 月末終値の長期系列(2005年1月〜2026年8月/Yahoo Finance)

本記事は公開情報を集計・整理したものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。アイカ工業の決算期は3月末で、2027年3月期は2026年4月1日から2027年3月31日までにあたります。会計基準は日本基準です。2025年6月20日に過年度の決算短信の数値データ訂正が公表されており、本記事の2025年3月期以前の数値は訂正後の開示およびIR BANKに基づいています。数値は各出所の公表時点のもので、その後の開示により変わることがあります。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。

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