2026年7月から8月に増配または上方修正を発表した高配当株146社を17項目で採点したシリーズの、個別銘柄編8社目です。今回は総合8位だった7296 エフ・シー・シーを、決算短信と適時開示の数字で掘り下げます。
結論
- 8月4日に出たのは年間配当を160円から180円へ、20円引き上げる増配でした。同時に通期予想も上方修正しています。2026年9月1日終値4,230円に対する予想利回りは4.26%です。
- ただしこの180円は、前期実績194円より14円・7.2%少ない金額です。「増配」というのは期初に出した自社予想160円と比べての話で、前の期と比べれば配当は減ります。
- 上方修正の中身は強いものでした。売上収益・営業利益・税引前利益はいずれも過去最高を更新する予想です。営業利益は18,927百万円から22,000百万円へ+16.2%。
- それなのに最終利益だけが18,760百万円から17,000百万円へ9.4%減ります。この一点が、今期の配当が減る理由のすべてです。
- 原因は業績ではなく前期の税負担が異常に軽かったことでした。2026年3月期は税引前利益21,567百万円に対して最終利益18,760百万円。抜けた割合は13.0%で、直近5期で飛び抜けて低い数字です。今期予想は29.2%に戻る前提で置かれています。
- 配当の決まり方は「配当性向50%またはDOE3.5%のいずれか高い方」という計算式です。今期の180円は1株利益356.43円の50.5%。1株利益が下がれば配当も自動的に下がる仕組みになっています。
- 第1四半期そのものは力強い内容でした。売上収益71,800百万円(前年同期比+18.3%)、営業利益7,032百万円(+38.8%)、営業利益率9.8%は3か月ベースでこの会社の過去最高です。
- 一方で気になる点もあります。営業キャッシュフローは2期続けて減っており(35,383百万円→27,930百万円→22,779百万円)、米国の製品不具合に対する製品保証引当金が8,923百万円残っています。
- 財務は強固で、自己資本比率77.6%、有利子負債倍率0.02倍の実質無借金。採点で減点1がついたのは2021年3月期の減配1回によるものでした。
前の7社との違い

このシリーズで先に取り上げた7社と並べると、同じ「増配」でも原資がまったく違うことが分かります。
| 銘柄 | 増配の原資 | 来期以降も残るか |
|---|---|---|
| 6200 インソース | 上場10周年の記念配当 5.5円 | 残らない(一時的) |
| 4746 東計電算 | 保有株の売却益 43億円(特別利益) | 売却を続けなければ残らない |
| 3771 システムリサーチ | 配当方針の変更(累進配当の導入) | 方針が続くかぎり残る |
| 1381 アクシーズ | 鶏肉相場の上昇と飼料コストの下落 | 相場が反転すれば残らない |
| 3964 オークネット | M&A投資枠70億円の振り替え | 原資が尽きれば残らない |
| 7931 未来工業 | 業績予想の再開でDOEから配当性向50%へ | 利益が減れば配当も減る |
| 1414 ショーボンドHD | 配当性向を60%へ引き上げ+自己株買い | 方針が続けば残る。ただし利益次第 |
| 7296 エフ・シー・シー | 上方修正で1株利益が上がったぶんの50% | 1株利益が下がれば配当も下がる |
7社めまでは、増配の原資が「一時的なもの」か「方針の変更」かのどちらかだった。8社めのエフ・シー・シーは、方針はすでに決まっていて動いていない。動いたのは1株利益のほうで、それが上がったから配当も上がった。同じ理由で、前の期より1株利益が下がる今期は、配当も前の期より下がる。配当の増減が業績にいちばん素直に連動している回。
前回の1414 ショーボンドHDは、利益がほぼ横ばいのまま配る比率を60%へ引き上げて増配した。今回のエフ・シー・シーは、配る比率50%を動かさないまま1株利益が上がったので配当も上がった。比率を動かすか、利益を動かすか。増配の作り方が逆になっている。
どんな会社か
二輪車・四輪車用のクラッチを作る専業メーカー。摩擦材の開発からアッセンブリー組立までを一貫生産している会社です。静岡県浜松市浜名区都田町に本社があり、東証プライムに上場、決算期は3月末。2027年3月期は2026年4月〜2027年3月です。従業員は連結7,804人・単独1,017人(2026年3月31日現在)、資本金41.75億円。
設立は1939年で、来歴はほぼそのまま日本の二輪・四輪産業の歴史と重なります。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1939年 | 静岡県浜松市に「株式会社不二ライト工業所」を設立。ベークライト樹脂の圧縮成形でクラッチ板・歯車の製造を開始 |
| 1948年 | 本田技術研究所(現・本田技研工業)と取引開始。以来77年の取引が続く |
| 1954年 | 鈴木自動車工業(現・スズキ)と取引開始 |
| 1956年 | ヤマハ発動機と取引開始 |
| 1984年 | 商号を「株式会社エフ・シー・シー」に変更 |
| 1988年 | 米国インディアナ州に進出。以降、海外生産拠点を広げる |
| 1994年 | 日本証券業協会に株式を店頭登録 |
| 1997年 | インド・ハリヤナ州にFCC RICO LTD.(現・FCC CLUTCH INDIA)を設立 |
| 2003年 | 東京証券取引所市場第二部に上場 |
| 2004年 | 東京証券取引所市場第一部に上場 |
| 2014年 | インドの合弁会社を100%子会社化し、インド事業を自社に取り込む |
| 2022年 | 東証の市場再編に伴いプライム市場へ移行 |
クラッチという単一の部品に絞って世界に広げてきた会社です。国内拠点は静岡県浜松市を中心に9か所、海外は10か国14社22生産拠点。インドに7拠点、アメリカに4拠点、中国に3拠点を置いています。
株主構成にもこの会社の性格が出ています。
| 大株主(2026年3月31日現在) | 持株数 | 比率 |
|---|---|---|
| 本田技研工業 | 10,881千株 | 22.5% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 4,688千株 | 9.7% |
| ワイ・エー | 2,556千株 | 5.3% |
| SMBC信託銀行(三井住友銀行退職給付信託口) | 2,203千株 | 4.5% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 1,281千株 | 2.6% |
筆頭株主は本田技研工業で22.5%。1948年に取引を始めてから77年になる相手が、そのまま大株主でもある。四輪クラッチはホンダ車のほぼ全車種に載っており、販売先としても株主としても1社への依存が大きい。
株価は2026年9月1日終値で4,230円、今期予想EPS 356.43円なのでPERは11.9倍、1株純資産4,289.64円に対してPBRは0.99倍です。時価総額は発行済株式数ベースで約2,160億円、自己株式を除くと約2,007億円になります。
本題:今回の「増配」は前の期より少ない

まず配当の実際の並びを見ます。
| 決算期 | 1株あたり年間配当 | 内訳 | 1株利益 | 配当性向 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年3月期 | 74円 | 普通配当のみ | 245.90円 | 30.1% |
| 2025年3月期 | 202円 | 普通76円+上場20周年記念126円 | 323.76円 | 62.4% |
| 2026年3月期 | 194円 | 普通配当のみ(中間67円+期末127円) | 387.36円 | 50.1% |
| 2027年3月期 会社予想 | 180円 | 普通配当のみ(中間90円+期末90円) | 356.43円 | 50.5% |
8月4日の開示は、期初(5月13日)に置いた160円を180円へ引き上げるものでした。期初予想と比べれば20円・12.5%の増配です。株探などの見出しに「配当も20円増額」と出るのはこの意味です。
ただし前の期と比べると、話が変わります。2026年3月期の実績は194円でしたから、今期予想180円は14円・7.2%の減少です。額面だけを並べれば、2025年3月期202円→2026年3月期194円→2027年3月期予想180円と、2期続けて前の期を下回っていることになります。
ここで注意が要ります。2025年3月期の202円には上場20周年の記念配当126円が入っています。中間配当101円のうち63円、期末配当101円のうち63円が記念配当で、普通配当は年間76円でした。ですから2026年3月期の194円は、普通配当だけで見れば76円から2.6倍に増えたことになります。額面では減配、中身では大幅増配という年でした。
そのうえで今期の180円は、普通配当どうしの比較でも194円→180円と減ります。記念配当のからくりを取り除いても、やはり前の期より少ないままです。
売上も営業利益も過去最高 最終利益だけが減る

今期の会社予想を前期実績と並べると、きれいに段差が出ます。
| 項目 | 2026年3月期 実績 | 2027年3月期 会社予想 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 260,836百万円 | 265,000百万円 | +1.6% |
| 営業利益 | 18,927百万円 | 22,000百万円 | +16.2% |
| 税引前利益 | 21,567百万円 | 24,000百万円 | +11.3% |
| 最終利益 | 18,760百万円 | 17,000百万円 | -9.4% |
| 1株あたり配当 | 194円 | 180円 | -7.2% |
株探の「過去最高【実績】」を見ると、売上・営業利益・税引前利益・最終利益・1株利益のすべてが2026年3月期に最高値を付けています。今期予想はそのうち売上・営業利益・税引前利益の3つを更新しますが、最終利益と1株利益は更新しません。

8月4日の修正そのものは、4項目すべてを引き上げる素直な上方修正でした。前回予想(5月13日)と比べると、売上収益+1.9%、営業利益+10.0%、税引前利益+9.1%、最終利益+13.3%です。それでも最終利益は前期実績に届きません。
なぜ最終利益だけが減るのか

答えは税金です。税引前利益から最終利益(親会社の所有者に帰属する当期利益)までのあいだで、どれだけ抜けているかを並べます。
| 決算期 | 税引前利益 | 最終利益 | 抜けた割合 |
|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 13,641百万円 | 9,566百万円 | 29.9% |
| 2024年3月期 | 19,169百万円 | 12,231百万円 | 36.2% |
| 2025年3月期 | 20,052百万円 | 15,859百万円 | 20.9% |
| 2026年3月期 | 21,567百万円 | 18,760百万円 | 13.0% |
| 2027年3月期会社予想 | 24,000百万円 | 17,000百万円 | 29.2% |
2026年3月期の13.0%は、5期のなかで飛び抜けて低い数字です。ふつうは3割前後が税金などで抜けるところ、前期は1割強しか抜けていません。
どこで起きたのかは四半期に割ると見えます。2026年1-3月の3か月は、営業利益5,011百万円・税引前利益5,802百万円に対して最終利益が6,517百万円と、税引前利益より最終利益のほうが大きくなっています。1株利益134.6円はこの会社の四半期の過去最高でもあります。前期の最終利益がふくらんだ場所はここです。
今期の会社予想は、抜ける割合が29.2%に戻る前提で置かれています。税引前利益が11.3%増えるのに最終利益が9.4%減るのは、ほぼこれだけが理由です。事業が悪くなるわけではありません。
裏を返せば、前期の1株利益387.36円と、それをもとにした配当194円は、一過性の要因で持ち上げられた水準だったということになります。今期の180円のほうが、この会社の平常運転に近い数字です。
配当は計算式で決まる
この会社の株主還元方針は、5月13日に公表した第13次中期経営計画(2026〜2030年度)にはっきり書かれています。
長期安定配当の維持を第一とし、「配当性向50%」または「DOE3.5%」のいずれか高い方で配当
8月4日の修正理由にも、そのまま同じ文言が出てきます。「配当目標である配当性向50%またはDOE3.5%のいずれか高い方による計算に基づき、配当予想についても修正を行うものです」。
実際に当てはめてみます。今期予想の1株利益は356.43円ですから、配当性向50%なら約178円。一方の1株純資産は4,289.64円(2026年6月30日現在)ですから、DOE3.5%なら約150円です。高いほうを取って180円、というのが今回の配当予想の作られ方でした。実際の配当性向は50.5%になります。
この方式は、利益が伸びれば配当も伸びるかわりに、利益が落ちれば配当も落ちる。今期の減配予想は業績が悪いからではなく、計算式にそのまま従った結果として出てきている。
もうひとつ、この方針には自己株式取得を5か年で250億円という枠も付いています。キャッシュアロケーションでは5か年累計の株主還元を700億円と置いており、その原資として営業キャッシュフロー1,900億円(研究開発費控除前)を見込んでいます。
第1四半期の中身

第1四半期は数字だけ見れば非常に強い内容でした。
| 項目 | 2026年3月期1Q | 2027年3月期1Q | 前年同期比 | 通期予想に対する進捗率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 60,705百万円 | 71,800百万円 | +18.3% | 27.1% |
| 営業利益 | 5,068百万円 | 7,032百万円 | +38.8% | 32.0% |
| 税引前利益 | 5,447百万円 | 7,723百万円 | +41.8% | 32.2% |
| 最終利益 | 4,679百万円 | 5,814百万円 | +24.3% | 34.2% |
| 営業利益率 | 8.3% | 9.8% | ― | ― |
1年を4等分すれば25%。営業利益32.0%・最終利益34.2%は、1四半期でならした水準をはっきり上回っている。しかもこれは8月4日に上方修正したあとの予想に対する進捗率。
裏を返せば、会社は下期をかなり慎重に置いています。1Qの売上71,800百万円をそのまま4倍すると287,200百万円ですが、通期予想は265,000百万円です。残り3四半期は1四半期あたり64,400百万円の計算で、1Qより1割低い水準を置いていることになります。
その慎重さの中身は為替です。第1四半期の実績レートは1ドル159.50円だったが、第2四半期以降は150.00円を置いている。通期の想定は152.37円。1Qの増益に効いた円安を、下期は続かない前提で見ている。

| セグメント | 前年同期 売上 | 今1Q 売上 | 前年同期比 | 前年同期 営業利益 | 今1Q 営業利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 二輪事業 | 28,163百万円 | 34,595百万円 | +22.8% | 2,516百万円 | 3,603百万円 |
| 四輪事業 | 32,516百万円 | 37,164百万円 | +14.3% | 3,151百万円 | 4,082百万円 |
| 環境エネルギー事業 | 25百万円 | 39百万円 | +55.0% | -599百万円 | -653百万円 |
売上の98.9%は二輪と四輪のクラッチ。二輪はインドの二輪車用クラッチの販売増、四輪は米国の四輪車用クラッチの販売増で伸びた。3つめの環境エネルギー事業は売上39百万円に対して営業損失653百万円。前年同期の599百万円の損失から赤字幅が広がっている。
環境エネルギー事業は第13次中期経営計画で2030年度に売上100億円・営業利益5億円を目指す位置づけ。いまは四半期で6.5億円ずつ赤字を出している段階で、この赤字は当面続く前提で見ておいたほうがいい。
2027年3月期1Qから、報告セグメントの「非モビリティ事業」を「環境エネルギー事業」に名称変更している。名称だけの変更で数値への影響はない。
実態は海外企業に近い
| 地域 | 今1Q 売上 | 前年同期比 | 今1Q 営業利益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 6,555百万円 | +12.9% | 962百万円 | +273.5% |
| 北米 | 31,491百万円 | +17.0% | 3,389百万円 | +37.7% |
| アジア | 32,015百万円 | +21.2% | 2,454百万円 | +8.7% |
| その他 | 1,737百万円 | +10.9% | 209百万円 | -20.5% |
日本の売上は6,555百万円で全体の9.1%しかない。北米31,491百万円とアジア32,015百万円で全体の88.5%を占める。実態としては海外企業に近い。だから業績が円安・円高でそのまま揺れる。
会社が1Qの説明で挙げた逆風は3つ。北米の「米国関税影響」、アジアの「中国の四輪車用クラッチの減産影響」、そして二輪の「中東情勢影響による資材価格の高騰」。いずれも増益にはなったが、その中で吸収したという書き方になっている。
業績はどう伸びてきたか

2002年3月期の711億円から2027年3月期予想の2,650億円まで、25年で3.7倍。ただし途中で2回、大きく落ちている。2010年3月期はリーマン・ショックで前期比20.1%減、2021年3月期は新型コロナで14.6%減。二輪と四輪の生産台数にそのまま連動する事業だからで、外部環境しだいで売上が一気に縮む構造になっている。
ここは高配当株として持つときに効いてきます。二輪・四輪の生産台数に連動する事業なので、景気が悪くなれば1年で売上が2割落ちることが実際に2回起きています。配当が配当性向50%で決まる以上、そういう年は配当も同じように落ちます。

営業利益率は2021年3月期の4.6%を底に、6期かけて8.3%(今期予想)まで戻してきた。第13次中期経営計画が掲げる2030年度目標も8.3%なので、5年後の目標水準に今期で並ぶ計算になる。ただしこれは過去最高ではない。2019年3月期には8.9%を付けており、いまはそこへ戻る途中というのが正確な言い方になる。
自己株買いと消却
配当と並ぶもうひとつの還元が自己株式取得です。今期はすでに1回実施しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 決議 | 2026年5月13日 取締役会 |
| 方法 | 自己株式の公開買付け(自己株TOB) |
| 買付期間の終了 | 2026年6月10日(決済は2026年7月2日) |
| 取得した株数 | 1,000,000株 |
| 取得価額の総額 | 3,083,000,000円(1株あたり3,083円) |
| 消却 | 2026年8月31日に全部を消却(発行済株式数の1.92%) |
| 消却後の発行済株式数 | 51,056,530株 |
2026年5月13日に決議した自己株式の公開買付けで1,000,000株・30億8,300万円ぶんを買い付け、8月31日付で消却した。発行済株式数は52,056,530株から51,056,530株へ1.92%減っている。取得単価は1株3,083円。買い付けが終わった6月10日ごろの株価が3,400円前後だったので、市場価格より1割ほど安い水準で買えている。
第13次中期経営計画では、自己株式取得の枠を5か年で250億円と置いている。今回の30.8億円はその1年目にあたる。買った株をそのまま消してしまうので、1株あたりの利益と配当を押し上げる方向に効きます。
財務とキャッシュフロー
財務は文句のつけようがありません。2026年6月30日現在で総資産267,589百万円、負債58,483百万円、自己資本比率77.6%。借入金は4,868百万円しかなく、現金及び現金同等物71,000百万円を大きく下回ります。株探の集計でも有利子負債倍率0.02倍で、実質無借金です。

ただしキャッシュフローには気になる動きがあります。営業キャッシュフローは、記録が取れる2008年3月期以降で一度も赤字になっていない。ただし直近は2期続けて減っている。2024年3月期の35,383百万円から2025年3月期27,930百万円、2026年3月期22,779百万円へ、2年で36%減った。営業利益は同じ2年で15,102百万円から18,927百万円へ25%増えているので、利益とキャッシュの向きが逆になっている。
フリーキャッシュフローは2025年3月期に2,155百万円まで縮んだ。投資キャッシュフローが25,775百万円と大きかったためで、同じ期の配当と自己株式取得を賄えていない。第13次中期経営計画は5か年で株主還元700億円・営業CF1,900億円(研究開発費控除前)を置いているが、この計画は営業CFが今の水準から戻ることを前提にしている。
第1四半期の営業キャッシュフローは6,391百万円、投資キャッシュフローは-2,296百万円、財務キャッシュフローは-5,288百万円(うち配当金の支払額6,060百万円)でした。棚卸資産が36,329百万円から39,430百万円へ3,100百万円増えており、これが営業キャッシュフローを押し下げています。
まだ残っている製品保証引当金
米国などで特定顧客に納入した一部製品の不具合に対する改修費用として、89億2,300万円の引当金が貸借対照表に残っている。2025年5月9日に「補償費用(製品保証関連)の計上に関するお知らせ」を出した件で、四半期の利益が振れた原因でもある。会社自身が短信で「不具合発生台数の予測や改修費用の見込み等については相対的に不確実性が高い」「引当金の追加計上又は戻入が必要となる可能性がある」と書いており、まだ確定していない。
金額の動きは、2026年4月1日の9,099百万円から、目的使用で273百万円減り、為替換算差額で97百万円増えて、6月30日時点で8,923百万円です。実際の改修がゆっくり進んでいる状態で、取り崩しのペースは四半期あたり3億円弱にとどまっています。
この引当金の影響は過去の四半期業績にも出ています。2025年1-3月の営業利益率は2.4%まで落ちており、直近8四半期でここだけが極端に低くなっています(ほかの四半期は5.9%から9.8%のあいだ)。
会社自身が「四輪は縮む」と置いている
5月13日に公表した第13次中期経営計画(2026年度〜2030年度(2027年3月期〜2031年3月期))の数値目標は、次のとおりです。
| 項目 | 2022年度 | 2025年度 | 2030年度 目標 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,189億円 | 2,608億円 | 3,000億円 |
| 営業利益率 | 5.4% | 7.3% | 8.3% |
| ROE | 6.2% | 9.6% | 9.0%以上 |
5年で売上を2,608億円から3,000億円へ、営業利益率を7.3%から8.3%へ。1年あたりの売上の伸びは約2.8%で、決して強気の計画ではない。目を引くのはROEで、2025年度の実績9.6%に対して2030年度の目標は「9.0%以上」。いまの水準を守る、という目標になっている。株主資本コストは7%程度(CAPMに基づく会社推計)と会社は置いています。
売上の中身のほうがむしろ重要です。中身を見ると、四輪の基幹事業は2025年度の1,358億円から2030年度は1,150億円へ減る計画。減るぶんを二輪の基幹(1,247億円→1,450億円)と、EV/CASE領域(二輪150億円+四輪150億円)、環境エネルギー(100億円)で埋めにいく。四輪クラッチという主力が縮む前提を、会社自身が置いている。
クラッチはエンジンとトランスミッションのあいだで動力をつないだり切ったりする部品ですから、四輪の電動化が進むほど要らなくなる方向にあります。会社が四輪基幹を縮める計画を出しているのは、その現実に沿った置き方です。逆に二輪はインドを中心にまだ伸びる前提で、インドのクラッチ市場ではシェア70%超と説明しています。
採点で減点1がついた理由
このシリーズの17項目採点で、エフ・シー・シーは加点19点・減点-1点・総合18点、146社中8位でした。
| 項目 | 評価 | 数値 |
|---|---|---|
| ①売上高 | ○ | 10年成長率4.53% |
| ②EPS | ◎ | 10年成長率12.18% |
| ③営業利益率 | △ | 7.26% |
| ④自己資本比率 | ◎ | 77.6% |
| ⑤営業CF | ○ | 赤字0回 |
| ⑥現金等 | ◎ | 10年で3.04倍 |
| ⑦配当金 | × | 連続増配0年 |
| ⑧配当性向 | ○ | 50.08% |
| ⑨株価の推移 | ◎ | 5年で+164.26% |
1株利益の10年成長率12.2%・自己資本比率77.6%・現金10年で3.0倍・株価5年で164%と、伸びと財務と株価はほぼ満点。落としたのは営業利益率7.3%(製造業としては薄い)と、連続増配年数がゼロであること。減点1点は2021年3月期の減配。この採点は2026年8月21日時点のデータで付けている。
減点の対象になった2021年3月期の減配は、中身を見ておく価値があります。新型コロナで先行きが読めなくなった2020年度に、配当予想を年間40円へ引き下げた。ただし結果を見ると、最終利益は3,920百万円から4,460百万円へ増えており、1株利益も78.91円から89.80円へ上がっている。利益が減ったから減らしたのではなく、先が読めないから減らした減配だった。
この前例が示すのは、この会社は業績よりも見通しの不透明さで配当を動かすということです。配当性向50%という計算式も、分母の1株利益が「予想」である以上、同じ性質を持ちます。
なお、直近10年の配当の変化を数えると増配7回・減配2回・据え置き1回です。減配は2021年3月期(58円→40円)と2026年3月期(202円→194円、記念配当の剥落によるもの)でした。連続増配銘柄ではありません。
株価

| 時点 | 月末終値 | いまとの比較 |
|---|---|---|
| 2026年8月末 | 4,180円 | ― |
| 1年前(2025年8月) | 3,145円 | +32.9% |
| 5年前(2021年8月) | 1,540円 | +171.4% |
| 10年前(2016年8月) | 2,070円 | +101.9% |
| 20年前(2006年8月) | 2,420円 | +72.7% |
| 5年安値(2022年4月) | 1,301円 | 3.2倍 |
2026年8月末の4,180円は、2005年以降の月末終値でいちばん高い。2022年4月の1,301円から4年4か月で3.2倍になった。それでも予想利回りが4.26%あるのは、同じ期間に配当が52円から180円へ3.5倍になったから。株価が上がった以上に配当が増えている。
ただし20年で見ると話は変わる。2006年8月末の株価は2,420円で、そこから2022年4月の1,301円まで16年かけて下がり続けた期間がある。いまの上昇は、その長い停滞のあとに来ているもの。20年前の2,420円から10年前の2,070円まで下がり、そこからさらに2022年4月の1,301円まで落ちています。16年にわたって株価が下がり続けた会社でもあるわけです。
PERは11.9倍、PBRは0.99倍。株価が最高値圏にありながらPBRが1倍を割っているのは、この会社の1株純資産が4,290円まで積み上がっているためです。
確認しておきたいこと
- 下期の為替。 会社は2Q以降を1ドル150.00円で置いています。1Qの実績は159.50円でした。円安が続けば上振れ、円高に振れれば剥がれる部分です。配当性向50%なので、1株利益の上振れ・下振れはそのまま配当に伝わります。
- 11月の中間決算。 上期予想は売上収益136,000百万円・最終利益9,400百万円・中間配当90円です。1Qの進捗が34.2%だったので、この予想がさらに引き上げられるかどうかがひとつめの節目になります。
- 製品保証引当金。 8,923百万円が残っています。会社自身が「追加計上又は戻入が必要となる可能性がある」と書いており、戻入があれば利益が増え、追加計上があれば減ります。どちらに転んでも配当に効きます。
- 米国関税と中国の減産。 1Qの説明でも逆風として挙げられていました。北米とアジアで売上の88.5%を稼ぐ会社なので、通商政策の変化は直接効きます。
- 営業キャッシュフローが戻るか。 2期続けて減っています。第13次中期経営計画は5か年で営業CF1,900億円・株主還元700億円を置いており、この計画は営業CFが今の水準から戻ることを前提にしています。
- 四輪基幹の縮小ペース。 2030年度に1,358億円→1,150億円という計画です。減るぶんを二輪とEV/CASEと環境エネルギーで埋められるかが、この会社の中期の勝負どころになります。
まとめ
エフ・シー・シーは、自己資本比率77.6%・実質無借金・営業キャッシュフローは記録が取れる範囲で一度も赤字なしという、財務面ではきわめて整った会社です。1株利益の10年成長率12.18%、株価は5年で164%上がり、いま最高値圏にあります。それでいてPERは11.9倍、PBRは0.99倍にとどまります。
そのうえで、今回の「増配」の読み方には注意が要ります。8月4日に発表された180円は、期初予想160円からの20円増額ではありますが、前期実績194円からは14円の減少です。理由は業績の悪化ではなく、前期の税負担が13.0%と異常に軽く、最終利益がふくらんでいたことにあります。営業段階では16.2%の増益で、過去最高を更新する予想です。
この会社の配当は「配当性向50%またはDOE3.5%の高い方」という計算式で決まります。方針そのものは動いていません。動いたのは1株利益のほうで、それが上がったから配当予想も上がり、前の期より下がるから配当も前の期より下がる。本シリーズ8社のなかで、配当がいちばん業績に素直に連動している会社です。
裏返せば、この銘柄を利回りで持つということは、二輪・四輪の生産台数と為替を持つのとほぼ同じだということでもあります。過去に2回、1年で売上が2割落ちた年があり、2021年3月期には減配もしています。予想利回り4.26%という数字は魅力的ですが、それは毎年同じだけ払われる約束ではなく、その年の1株利益の半分である、と理解しておくのがこの会社との正しい付き合い方だと思います。
動画版
この記事の内容を、グラフを見ながら約20分で解説した動画版です。配当の推移という本題は3分13秒から、「増配」と「減配」が同時に成り立つ話は4分4秒から、最終利益だけが減る理由(前期の税負担)は5分37秒からです。営業キャッシュフローが2期続けて減っている件は13分54秒、製品保証引当金89億円の話は14分45秒から扱っています。
データ出所
- 2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)(2026-08-04/TDnet)
- 業績予想および配当予想の修正に関するお知らせ(2026-08-04/TDnet)
- 自己株式の消却完了に関するお知らせ(2026-08-31/TDnet)
- 第13次中期経営計画(2026〜2030年度)(2026-05-13/会社IRサイト)
- 第12次中期経営計画 進捗(2024年度)(2025年5月/会社IRサイト)
- 業績・配当・財務・キャッシュフローの長期推移(2008〜2026年3月期/IR BANK)
- 株価・PER・PBR・時価総額・四半期業績・過去最高(2026-09-01終値/株探)
- 会社概要・沿革・株式情報(2026-09-02閲覧/会社IRサイト)
- 月末終値の長期系列(分割調整後)(2005年1月〜2026年8月/Yahoo Finance)
本記事は公開情報を集計・整理したものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。エフ・シー・シーの決算期は3月末で、2027年3月期は2026年4月1日から2027年3月31日までにあたります。2015年3月期からIFRSを適用しているため、それ以前の日本基準の数値とは単純に比較できない箇所があります。数値は各出所の公表時点のもので、その後の開示により変わることがあります。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。

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